Favorite Fab

Let's make & being Fabrication

総務省の「『ファブ社会』の展望に関する検討会」の報告書を読み解く

総務省の情報通信政策研究所では、3DプリンタやNCミルといったPCから簡単に利用できるデジタルファブリケーション機器の普及によって、新しい「ものづくり」の流れが社会にどのような影響を与えるかを展望する、「『ファブ社会』の展望に関する検討会」の報告書を6月27日に公開した。

この検討会は、座長には慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也 准教授が就き、この分野の最先端の研究者、ファブリケーションの現場にいる起業家、また新分野の知見に深い法律家などが参加して、2014年1月に第1回から、全5回にわたって開催された。

検討会には、公文俊平氏(多摩大学情報社会学研究所 所長、(財)ハイパーネットワーク社会研究所 理事長)や、村井純氏(慶應義塾大学環境情報学部 学部長)など、社会学やネットワークの学識者をゲストに招き、それぞれの分野から「ファブリケーション」がどのように位置付けられるのか、スピーチを行った。

この報告書のポイントは、大きく3つある。1つめが「フィジタル空間の出現」、2つめが「ファブ社会による変化」、3つめが「ファブ社会の発展のための課題」だ。

1,サイバー空間+リアル空間=フィジタル空間

フィジタル空間とは、フィジカル(リアル空間)とデジタル(サイバー空間)が融合した、新たな環境を指し示す造語のことだ。

私たちの身の回りにあり、手で触り、目で見ることができるフィジカルな物質世界は、インターネットの登場とセンサーデバイスの発達、スマホを始めとするコンピューティングデバイスの普及によって、データとして捉えられ、サイバー空間にデジタルとして蓄積されるようになった。

そして一方で、さまざまなデジタルデータがインターネットを通じて流通し、そして3Dプリンタなどのファブリケーション機器によって、リアルなモノに変換可能となった。つまり、リアルな物と、デジタルなデータが、相互の行き来できるようになった。リアル空間とサイバー空間が徐々に融合しつつあるのだ。そのような新しい環境の認知を「フィジタル空間」だとこの報告書では呼んでいる。

2,物作りの解放が変える社会

フィジタル空間の登場は、人々がファブリケーション機器を自由に使える環境と、そこで利用する3Dデータのような「オブジェクト」のデジタル・コンポーネントを作り流通させる環境の浸透を意味する。

そこでは、製造、物流、販売、決裁といった社会的な機能の位置付けや意味付けが代わり、人々に求められる「製品」のあり方も変化する。そして、労働や日常生活、学習さらには法制度や生活圏などにも変化を促すと、報告書では述べられている。

3,法と教育と規範

新たなファブ社会においては、製造物の責任のあり方も異なってくる。例えば、現在のPL法のように企業を前提として、「消費者対製造者」のような非対称的なスキームはそぐわない。また、流通する3Dデータの利用に際しての知財の取り扱いも異なってくる。端的には、自分のニーズに合わせて既存のデータを修正して利用し、それをさらに公開する。いわばオープンソースソフトをGithubに公開し、それをフォークしていくようなイメージだ。ひとつの「ファブリケーションにおける製造物」においてすら、こうした既存のスキームとの違いが考えられる。


これらのポイントは、おもに法律や企業、流通などの変化に着目している。この他にもファイナンス面での変化やニーズ、またより身近な規範レベルでの変化などもあるだろう。実際に、このようなファブ社会の登場を身近に感じられるのは、おそらく10年以上先のことだろう。しかし、インターネットの普及が主にメディア産業に大きな変化をもたらしたように、ファブ社会への移行が製造、流通分野を大きく変化させるとしたら、そのインパクトはインターネット以上のものとなるかもしれない。